
キケ・ヘルナンデス
― 10月だけ別人になる男
通算打率.236、OPS+91。数字だけ見れば、平均以下の野手だ。しかし10月になると、この男は別人になる。ポストシーズン通算OPS.825、3度のワールドシリーズ制覇。「自分はこの地球に置かれた理由がある。それは家族を愛し、人を笑わせ、10月の野球を楽しむことだ」――本人がそう言い切るほど、キケ・ヘルナンデスはポストシーズンのために生まれてきた男なのかもしれない。
01基本プロフィール
02キャリア概要 ― プエルトリコからドジャースへ
キケ・ヘルナンデスは1991年8月24日、プエルトリコのサンファンで生まれた。父エンリケ・シニアはかつてピッツバーグ・パイレーツのスカウトを務めており、幼少期から野球を身近な存在として育った。高校はグアイナボの軍事学校(アメリカン・ミリタリー・アカデミー)に通い、そこでのプレーが評価されて2009年、17歳のときにヒューストン・アストロズに6巡目指名で入団。契約ボーナスは15万ドルだった。
マイナーリーグでは主に内野手として腕を磨き、2014年7月1日にアストロズでMLBデビュー。同月末にはマイアミ・マーリンズへトレード、さらに同年オフにディー・ゴードンとのトレードでロサンゼルス・ドジャースへ移籍した。この「キケがドジャースへ来たトレード」の相手がなんと、前回Vol.1で紹介したミゲル・ロハスでもあった(ロハスはドジャースからマーリンズへ)。ふたりはこうして早くも因縁で結ばれている。
2015年からドジャース一筋の6年間を経て、2021〜2023年はボストン・レッドソックスへ。2021年のポストシーズンでは打率.408、5本塁打という怪物的な活躍を見せ「オクトーバー・キケ」の名を全米に知らしめた。2023年7月のトレードで古巣ドジャースへ戻り、以後3シーズン連続でチームを世界一に導いている。
03近年の成績データ
| 年度 | 試合 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | 本塁打 | 打点 | WAR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022(BOS) | 140 | .222 | .295 | .390 | .685 | 16 | 60 | 1.4 |
| 2023(BOS/LAD) | 140 | .241 | .302 | .390 | .692 | 14 | 62 | 1.4 |
| 2024(LAD) | 126 | .229 | .296 | .395 | .691 | 12 | 42 | 1.3 |
| 2024 PS | 17 | .294 | .351 | .529 | .880 | 2 | 6 | — |
| 2025(LAD) | 92 | .203 | .255 | .366 | .621 | 10 | 35 | 0.6 |
| 2025 PS | 17 | .250 | .290 | .359 | .649 | 1 | 7 | — |
※ ハイライト行はポストシーズン成績。レギュラーシーズンの不振をポストシーズンで取り返すパターンが顕著。通算ポストシーズンOPSは.825(レギュラーシーズンの.708を大きく上回る)。
スーパーユーティリティとしての守備力
キャリアを通じてキャッチャー以外の全ポジションを経験。外野(特にセンター)と二塁での出場が最多だが、状況に応じて遊撃・三塁・一塁もこなす。フィールディング・バイブル賞も受賞経験あり。守備の質がOFW(守備貢献)に表れにくいポジションを多くこなしているにもかかわらず、守備評価は常に高水準を維持している。
04「オクトーバー・キケ」誕生の夜
その伝説は2017年のNLCS第5戦、シカゴ・リグレーフィールドで生まれた。ドジャースにとって1988年以来となるリーグ優勝がかかった一戦、キケはキューブスのジョゼ・キンタナから初球をたたき先頭打者ホームラン。その後、満塁で今度は初球スライダーをグランドスラム。さらに9回にもソロ本塁打を放ち、1試合3本塁打・7打点という前代未聞の爆発で11対1の圧勝に貢献した。
「自分はこの地球に置かれた理由がある。それは家族を愛し、人を笑わせ、10月の野球を楽しむことだ」— Kiké Hernández(ワールドシリーズ前の取材にて)
あの夜からキケは「10月の申し子」となった。2021年にはレッドソックスのポストシーズン全試合にスタメン出場し、打率.408・5本塁打・OPS1.008でボストン史上最高のポストシーズンOPS(最低50打席)を記録。2024年NLDSではパドレスとの第5戦でも試合の流れを引き寄せる決定打を放った。
ドジャース監督のデーブ・ロバーツは「オクトーバー・キケは特別な存在だ。その実績は歴史が証明している」と繰り返し語っており、チームのポストシーズンでのスターティングメンバー選定で最も信頼される選手のひとりであることは間違いない。
05ドジャース最多ポストシーズン出場記録保持者
2025年のワールドシリーズでキケはドジャースの選手として歴代最多となるポストシーズン出場記録を更新した。それまではジャスティン・ターナーが持っていた86試合の記録だったが、キケはWS第1戦でこれに並び、翌戦で単独トップに立った。
「ここはただのフランチャイズじゃない。ロサンゼルス・ドジャースだ。長い歴史があって、多くの偉大な選手がいた。その記録を超えられることは光栄だよ」— Kiké Hernández(MLB.comインタビューより)
10年近くドジャースブルーを着続け(レッドソックス時代を挟みながら)、2020・2024・2025年と3度のワールドシリーズ制覇。ポストシーズン出場記録と複数回の優勝を組み合わせれば、現役のドジャース選手の中では最も「チームの勝負どころを知っている」選手と言っていいだろう。
062026年シーズン ― 肘手術明けの復帰戦
2025年シーズン中から左肘の痛みを抱えながらもプレーを続けたキケは、ポストシーズン終了後に左肘手術を受けた。このため2026年の再契約(1年450万ドル)の発表は2月中旬と遅れ、開幕時には60日間の故障者リスト入りからスタートしている。
しかし回復は順調で、本人は「スケジュール通り、いや少し早めに戻れそうだ」と前向きに語った。復帰予定は最短で5月24〜25日(対コロラド・ロッキーズ、ホーム)とされており、記事公開時点では復帰が近い状況だ。
故障中もチームへの貢献を忘れない
キケはIL入り中もベンチから積極的に声を出し、若い選手たちへのアドバイスを惜しまない。ロバーツ監督は「彼がグラウンドで守備を取り、バットを振っている様子を見ていると、今すぐ先発に入れたくなる」と絶賛。フィジカル面のリハビリと並行して、精神的支柱としての存在感も発揮している。
復帰後はレギュラーシーズンの残り約4ヶ月で状態を整え、10月に本領を発揮するというのが理想のシナリオ。ドジャースが目指す「スリーピート(3連覇)」に向けて、最も頼れるポストシーズン戦士の帰還が待たれる。
07大谷翔平との関係と2026年への展望
キケと大谷翔平は、いずれもプレーに対する強い情熱と明るいキャラクターで知られる点で共鳴するものがある。実際、クラブハウスでのキケは常にチームの雰囲気を明るくする存在であり、大谷とのやりとりも良好だとされている。プエルトリカンらしい陽気な性格とプロとしての真剣さを併せ持つキケは、大谷が日本人選手として異国でチームに溶け込んでいく過程でも、自然な笑いや関わりで雰囲気を作ってきた一人だ。
復帰後のキケに期待される役割はシンプルだ。対左腕でのスタメン出場、内外野どこでも使えるバックアップ、そして何よりポストシーズンに向けての「勝負強さ」。スリーピートを狙うドジャースにとって、10月のキケは計算できる数少ない存在のひとりである。
ここを見逃すな
復帰直後の状態確認と、対左腕先発時のスタメン起用。そしてポストシーズンに入ってからの打席は必見。レギュラーシーズンとは別人のような集中力と勝負強さが発揮される場面を、ぜひ注目してみてほしい。





コメント